輸出関連法規:ものだけでなく、技術も外へ出る

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輸出関連法規:ものだけでなく、技術も外へ出る

前回は「環境関連法」で、機器を捨てるときの決まりと、エネルギーの使い方を見ました。 ものを使い終わったあとの話でしたね。

今回は輸出関連法規です。 「海外に売っていないから関係ない」と読み飛ばされがちですが、ソースコードを海外の拠点と共有した時点で当事者になりうる話です。

図1 外為法とEARは、かかる場面が違います

図1:外為法とEARは、かかる場面が違います。

出てくる法律は2つ。 日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)と、アメリカの輸出管理規則(EAR)です。

この章で必ず区別したいのは、どちらの門の話かです。 外為法は日本から外へ出すとき、EARは米国を離れたあとの動きを見ています。

まず結論:この章の用語

用語意味
外為法対外取引全般の法律。輸出や技術の提供に許可が要る場合も定める
リスト規制表に載っているものは、行き先を問わず許可が要る仕組み
キャッチオール規制表に載っていなくても、用途や相手しだいで許可が要る仕組み
該非判定その貨物や技術が、規制の表に当たるかどうかを調べること
役務取引技術を提供する取引。ものを送らなくても対象になりうる
みなし輸出国内での提供でも、相手が非居住者なら輸出と同じ扱いになりうる
非居住者国籍ではなく、どこに住みどこで働いているかで決まる
EAR米国輸出管理規則。品目や技術の輸出・再輸出を管理する
再輸出EARの対象品目を、ある外国から別の外国へ送ること
de minimis米国原産の規制対象分が一定割合を超えるかを見る判定

この章のゴール
「ものを送っていないから輸出ではない」と言わなくなることです。

1. なぜ、外へ出すことに決まりがあるのか

図2 同じ品物が、使い方しだいで別のものになります

図2:同じ品物が、使い方しだいで別のものになります。

輸出に許可が要ると聞くと貿易の手続きを思い浮かべますが、この規制の根っこは安全保障です。 商売の都合ではありません。

性能の高い部品や技術は、使い方しだいで兵器の開発にも使えます。 精密なモーターも高速な半導体も、それ自体は工場や通信の道具です。 こうした「どちらにも使えるもの」をデュアルユースと呼びます。

外から眺めただけでは、どちらに使われるかは分かりません。 だから規制は、品物そのものだけでなく、行き先と使い道まで見にいきます。 どこまでを規制するかの国際基準国際輸出管理レジームで決まり、通常兵器と汎用品を扱うワッセナー・アレンジメントなどがあります。 参加国がそれぞれの法律で実施し、日本での受け皿が外為法です。

2. まず表を見る:リスト規制

図3 表に載っているものは、行き先を問わず許可が要ります

図3:表に載っているものは、行き先を問わず許可が要ります。

外為法の輸出管理は二段構えです。 一段目がリスト規制表に並べておいて、載っているものは許可が要る、という素直なやり方です。

表は、貨物なら輸出貿易管理令の別表第1、技術なら外国為替令の別表です。 武器や原子力にかかわるものなどが並び、当たれば行き先を問わず経済産業大臣の許可が要ります。

当たるかどうかを調べることを該非判定といいます。 部品なら、作った会社が仕様の値をまとめた資料を出しています。 担当者の勘で決めてよいものではありません

3. 表になくても止まる:キャッチオール規制

図4 用途や相手しだいで、表になくても許可が要ります

図4:用途や相手しだいで、表になくても許可が要ります。

二段目がキャッチオール規制、別名は補完的輸出規制です。 表からこぼれたものを、別の角度から見にいきます。

引き金は3つ。 兵器の開発などに使われるおそれという用途要件、相手が懸念のある需要者だという需要者要件、経済産業省から知らされるインフォーム要件です。 どれかに当たれば、表になくても許可が要ります

行き先によって扱いが変わり、輸出令別表第3の地域、いわゆるグループA向けは対象から外れます。 以前の「ホワイト国」という呼び方は、2019年の見直しで整理されました。

食料品や木材なども対象から外れており、何でも止める仕組みではありません

4. 輸出は、ものを送ることだけではない

図5 ものを送らなくても、外へ出したことになります

図5:ものを送らなくても、外へ出したことになります。

ここからがITの人に効いてくる話です。 外為法が見ているのは、ものの移動だけではありません

ものを送るのが貨物の輸出。 技術を提供するほうは役務取引と呼ばれ、こちらも許可の対象になりえます。 プログラムも同じで、媒体で送っても回線で送っても扱いは変わりません

ただし、ソフトウェアを海外へ渡すなら必ず許可が要る、という話ではありません。 当たるかどうかは、中身が表の項目に該当するかで決まります。

5. 技術の提供は、渡し方を問わない

図6 渡し方が変わっても、提供したことは変わりません

図6:渡し方が変わっても、提供したことは変わりません。

では、どう渡したら提供になるのか。 渡し方は問いません。 メールに添付する、クラウドに置いて国外から見られるようにする、記録媒体で持ち出す、画面を見せて説明する。 どれも提供にあたりえます。

「送信ボタンを押していないから大丈夫」が通らないのは、ここです。 置いて、見られる状態にしただけでも提供になりえます。

一方で、すでに広く公開されている技術のように、対象から外れる扱いもあります。 外れるかどうかを自分で決めず、社内の輸出管理の窓口に確かめてください。

6. 国内で渡しても輸出になる:みなし輸出

図7 国内で渡しても、相手しだいで輸出と同じ扱いです

図7:国内で渡しても、相手しだいで輸出と同じ扱いです。

名前が分かりにくいのがみなし輸出。 国境を越えていないのに、輸出と同じ扱いになることがあります。

日本国内の会議室で、規制の対象になる技術を非居住者に説明した。 場所は日本でも、渡した先が外の人なら、外へ出したのと変わりません。 許可の対象になりえます。

いちばん多い取り違えが「外国籍かどうかで決める」です。 分かれ目は居住者か非居住者かで、見るのはどこに住み、どこで働いているかです。 日本に長く勤める外国籍の人は居住者、海外支店に長く出ている日本人は非居住者になります。

さらに2022年に施行された見直しで、居住者でも外国政府などから強い影響を受けている人への提供は、非居住者への提供と同じように扱うことが示されました。

7. もう一つの決まり:米国のEAR

図8 米国を出たあとの動きまで、EARは見ています

図8:米国を出たあとの動きまで、EARは見ています。

シラバスには米国輸出関連法も挙がっています。 中心がEAR(米国輸出管理規則)です。 米国商務省が所管し、対象の品目には番号が振られています。

品物や技術だけでなく相手が誰かでも止まり、名指しされた企業の一覧も公表されています。 なお、武器そのものは国務省の別の規則が受け持ちます。 EARと同じだと思い込まないでください。

実務で効くのは、日本の外為法を満たしても、それだけで終わりとは限らないことです。

8. 再輸出と、含まれる割合の判定

図9 再輸出と、含まれる割合の判定は別ものです

図9:再輸出と、含まれる割合の判定は別ものです。

EARで必ず出てくるのが再輸出です。 定義はきっちり覚えてください。 EARの対象品目を、ある外国から別の外国へ送ること。 米国を離れたあとの動きです。

よく混ざるのが「アメリカ由来の部品が入っていれば再輸出になる」という言い方です。 部品が入っているだけで、自動的に再輸出になるわけではありません

部品の話は別の判定です。 外国製の製品に含まれる米国原産の規制対象分が一定の割合を超えると、その製品がEARの対象になりうる。 これをde minimisの判定といい、しきい値は仕向地で違います。

9. 開発の現場で効いてくる場面

図10 ソースの共有も、席の隣も、輸出管理の話になります

図10:ソースの共有も、席の隣も、輸出管理の話になります。

1つ目は海外拠点へのソース共有。 リポジトリの権限を1つ足すだけで、技術の提供になっていることがあります。 誰がどこから見られるかを、設計のときに決めておいてください。

2つ目は外国籍のメンバーへの技術提供。 席が隣でも、見るのは住まいと勤め先でした。 国籍で決めてはいけませんし、国籍だけで仕事を割り振らないことも大事です。

3つ目はOSSの扱い。 外為法には、すでに公知になっている技術は対象から外れる扱いがあります。 ただし暗号にかかわるものは、米国側で別に届け出が要ることがあります。 無許可の輸出には刑事罰があり、輸出を一定の期間できなくする処分もあります。 迷ったら担当へ回してください。

10. この章で必ず区別したいこと

図11 どこを見て決めるのかを、取り違えないでください

図11:どこを見て決めるのかを、取り違えないでください。

1つ目、ものか技術か。 貨物を送るのが輸出、技術を提供するのが役務取引。 「送っていないから関係ない」は通りません。

2つ目、動きか割合か。 再輸出は外国から外国への動き、de minimisは中身に含まれる米国原産分の割合でした。

3つ目、住まいか国籍か。 みなし輸出で見るのは居住者か非居住者かです。 この3組を取り違えなければ、たいていは仕分けできます。

確認問題

問1 外為法に基づく輸出規制の説明として、適切なものはどれか。
ア 規制の対象は貨物の輸出だけであり、技術の提供は含まれない
イ 規制の表に載っていない貨物でも、用途や需要者によっては許可が必要になる場合がある
ウ 輸出する相手国が決まってさえいれば、貨物の種類にかかわらず許可は不要である
エ 国内での取引なら、相手が誰でも許可が必要になることはない

答え:イ
これがキャッチオール規制です。 アは役務取引も対象になりうるので違います。 ウは逆で、表に当たれば行き先を問わず許可が要ります。 エはみなし輸出があるので違います。

問2 米国輸出管理規則(EAR)における再輸出の説明として、適切なものはどれか。
ア 米国から日本へ品目を輸入すること
イ EARの対象品目を、ある外国から別の外国へ送ること
ウ 一度輸出した貨物を、そのまま国内へ戻すこと
エ 米国原産の部品が少しでも含まれていれば、すべて再輸出にあたる

答え:イ
再輸出はアメリカを離れたあとの、外国から外国への動きです。 アもウも国内へ入ってくる向きで、ウのように一度出したものを戻すのは再輸入と呼ばれます。 エはde minimisと混ざっています。 割合を見る判定は、これとは別に置かれています。

問3 みなし輸出の説明として、適切なものはどれか。
ア 国内で非居住者に技術を提供する場合も、輸出と同様に許可が必要になることがある
イ 技術の提供は、書類を国外へ持ち出したときだけ対象になる
ウ 相手が外国籍であるかどうかだけで、対象になるかが決まる
エ 国内での提供である限り、外為法の対象になることはない

答え:ア
場所が国内でも、渡した先が非居住者なら外へ出したのと変わりません。 イは渡し方を問わないので違います。 ウは国籍と居住性の取り違え、エはみなし輸出そのものの否定です。

まとめ

図12 日本の決まりと米国の決まりに分けて整理します

図12:日本の決まりと米国の決まりに分けて整理します。

日本の門が外為法。 表に載っていれば行き先を問わず許可が要るリスト規制と、用途や相手しだいで許可が要るキャッチオール規制の二段構えでした。

対象は貨物だけではありません。 技術やプログラムの提供も入りえます。 国内での提供でも、相手が非居住者ならみなし輸出になりえます。

もう一つの門が米国のEAR再輸出は対象品目を外国から別の外国へ送ることで、含まれる割合を見るde minimisとは別の判定でした。

実務に持ち帰ってほしいのは、権限を1つ足す前に確かめるという習慣です。

法律の話はここでひと区切りです。 次回からは標準化関連。 1本目は「JISと国際規格」です。 誰が決めた決まりなのかを、順に見ていきます。

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